企業の利益と社会の幸福を両立させるための
“ビジネスの創造”を追求する
会長(代表理事) 佐藤 一弘
馬場玄式前会長の後を継いで7代目の一般社団法人日本開発工学会の会長を務めることになりました。社会が大きく変化している時期、会長に就任するということで、日本開発工学会の新たな展開に努めて行かなければならないという思いでおります。
馬場前会長のご挨拶の中に設立経緯が記載されておりました。日本開発工学会は、ダイヤモンド社(当時、霞が関)が、特許制度に新たに導入された公開情報(昭和46年[1971年])に基づき経営開発情報(MDI:Management & Development Intelligence)を提供している過程で水野恵司(千葉商科大学教授)初代運営委員長の旗振りのもと発足したとありました。発足後、約50年が経っており、各種学会の中でも老舗の学会だと言えるのではないでしょうか。50年という長い間、活動を継続できたと言うことは、社会における存在意義を認められていると言うことであり、更に発展させなければならないと考えております。
日本開発工学会の社会的使命をあらためて見てみますとビジネスの創造に関するすべての事柄を研究する学会であり、「技術と社会の調和」、「理論と実務との橋渡し」をめざすとあります。
現在、大多数の技術は、たいへん多くの自然科学的な知識を基礎として成り立っており、技術は複雑化し全体像を捉えるのが難 しくなっています。一方、社会の理解には、人間の心の動きや思考に関する人文科学、社会的行動に関する社会科学があり、複雑化する技術の俯瞰と人文科学、社会科学の理解無くして「技術と社会の調和」を図ることはできません。
また、「技術と社会の調和」が崩れ、未来への持続可能性に対する課題が顕在化してきているとも言えます。多量の化石燃料を使うことによる温暖化やプラスチックの廃棄等の環境問題、これらに起因する自然災害の大型化や生物多様性の問題、更に水資源の問題や人口問題等が顕在化し来ています1)。
現在、世界では、化石燃料を使うことにより100億トン近くのCO2を排出し地球が吸収できる30億トンを大幅に上回っているそうです。このため、大気中のCO2濃度は1800年代から急速に上昇し、280ppmから400ppmになっているというデータが示されています。世界の人口は今、75億人と言われていますが、2050年には100億人に到達すると予想されています。この人口を賄えるだけの食料を供給できるのか懸念が拡がっています。農業の生産を増やしたくても水資源や農地の劣化で生産を増やせないのが現状のようです。
その一方、フードロスが問題となっています。日本でのフードロスは2015年に約646万トンありました。約6割が事業系からで残りの4割が家庭からのものです。この解決も大きな課題です。包装容器を見てみますと、この20年で400%も増加し、その多くが紙、プラスチックになっています。世界のプラの包装容器量は、2015年に1億4千万トンになっています。確かに先進国ではPETボトルリサイクル率は高くなっていますが、世界的に見ると90%超は、固形廃棄物になっています。海洋中の廃棄されたプラスチックの量は、2050年に魚の量を超えるといわれています。
これらは、将来への持続可能性に対する課題であり、2030年までに解決すべき課題として、皆さんご存じの通り、SDGSとしてまとめられています。
今、企業は、これらの未来への持続可能性に対する課題解決へ経済活動を通しての取組みが求められ、多くの企業のビジョンや理念で取組み強化が謳われています。
そのためのビジネス創出または戦略構築には、技術経営を始めとした「理論と実務との橋渡し」が重要であることは言うまでもありません。このことは、日本開発工学会の社会的使命の実践に他なりません。
日本開発工学会には、技術系、社会科学系の多彩な方々が活躍されており、「技術と社会の調和」、「理論と実務との橋渡し」のための活動がしやすい環境にあります。企業の利益と社会の幸福を両立させるための “ビジネスの創造”を追求し、日本を再び活性化すべく、会員の皆様の活躍と伴に、日本開発工学会を発展させて行きたいと考えています。
参考文献 1)ピーター・センゲ(2010),『持続可能な未来へ』,日本経済新聞出版社